警備事故で警備会社が負う賠償責任|25億円求償請求の実例と契約書の見直しポイント
0. はじめに
警備員自身の不祥事や現場対応のミスは、警備会社に対して数億円規模の損害賠償請求に発展することがあります。実
際に、警備員による放火事件をめぐり、保険会社が警備会社に対して25億円を超える求償請求訴訟を東京地方裁判所に提起した事例が報じられています。
セントラル警備保障株式会社「当社に対する損害賠償請求訴訟の提起に関するお知らせ」
1. 【実例】警備員による放火事件と25億円求償訴訟
報道によると、大手警備会社であるセントラル警備保障の元従業員が、派遣先での盗難騒ぎの際に犯人と疑われたことを不服に思い、2020年に別の警備先である京三製作所に侵入してモニターを盗み、その後も警備体制が変わらないことへの不満を募らせ、2021年1月14日、従業員が在社する工場に侵入してガスバーナーで放火するという事件を起こしました。
火災により約1,050平方メートルが焼失し、損害額は164億円を超えるとされています。
京三製作所と損害保険契約を結んでいたあいおいニッセイ同和損害保険は、保険金を京三製作所に支払ったことにより損害賠償請求権を代位取得し、セントラル警備保障に対して、元従業員に対する使用者責任に基づく保険代位求償として25億6,675万1,273円を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。
この事例が示すのは、警備員個人の不祥事であっても、使用者責任(民法715条)を通じて警備会社が高額な損害賠償責任を問われうるという現実です。
2. 警備事故の主な類型
警備業が遭遇する事故の主な類型は以下のとおりです。
- 常駐警備先での盗難・侵入・火災
- 交通誘導警備における人身事故・車両事故
- 輸送警備における現金・貴重品の紛失
- 機械警備における異常信号への対応の遅れ
- 警備員自身の不祥事(横領、施設内での違法行為)
損害保険会社が公表する警備業向け賠償責任保険の資料でも、警備対象物の損壊・紛失・盗取に関する損害賠償責任や、警備業務用機械装置の欠陥による損害など、複数の類型に対応した特約が用意されています。実際の事故例として数千万円規模の損害額が例示されている資料もあります(出典:青葉損害保険代理店「警備業のみなさまの賠償責任保険」)。
3. 交通誘導警備における責任の考え方
警備業法15条では、警備業者及び警備員には、警備業務を行うにあたり特別な権限は与えられていない旨が明記されています。
そのため、警備員の交通誘導には運転手を法的に従わせる権限はなく、誘導に従うか否かは運転手自身の判断とされるます。もっとも、誘導ミスが事故の原因と評価される場合には、警備員に民事責任が生じ、使用者責任により警備会社にも損害賠償責任が及ぶとされています。被害者は資力の観点から、警備員個人ではなく使用者である警備会社に損害賠償を請求するのが通常です。
4. 契約書の責任範囲条項が生死を分ける
警備委託契約における損害賠償の範囲・上限・免責の定め方は、実際に事故が起きたときの負担額を左右します。しかし現実には、次のような状態のまま契約している警備会社も少なくないのではないでしょうか。
- 委託元が用意した契約書に、無限定の賠償責任条項が入っている
- 「警備業務の懈怠により生じた一切の損害を賠償する」といった包括的な文言になっている
- 不可抗力や委託元の指示に起因する場合等の免責事由が定められていない
- 賠償責任保険でカバーされる範囲と、契約上の責任範囲がずれている
京三製作所の事例のように、実際の損害額が巨額にんるることもある以上、契約書の責任範囲条項と保険の補償範囲を突き合わせて確認する作業は、万一の賠償額を数千万円〜数億円単位で変える作業だといえます。
5. 苦情対応義務との関係(警備業法20条)
警備業法20条は、警備商社に対して、警備業務に関する苦情の適切な解決を求めています。
事故発生時の初期対応・委託元への報告・苦情対応の記録は、後の責任範囲をめぐる交渉においても重要な資料になります。
6. 事故が起きた場合の対応の流れ
実務上、警備事故の発生を完全に防止することは難しいのが実情です。そのため、事故の発生想定し、事前に事故が発生した場合の対応策を定めておく必要があります。当然、裁判等の法的な紛争に発展する可能性もあるため、対応策は弁護士と協議の上で定めておくことが望ましいです。
- 事実関係の把握と証拠保全(現場記録、防犯カメラ映像、関係者からの聴取)
- 委託元・保険会社への速やかな報告
- 契約書上の責任範囲・免責事由の確認
- 被害者・委託元との交渉、示談または訴訟対応
- 再発防止策の策定と、委託元への説明
7.よくある質問(FAQ)
Q1. 警備員個人の犯罪行為でも会社が賠償責任を負うのですか?
A. 使用者責任(民法715条)により、被用者が事業の執行につき第三者に加えた損害について、使用者も賠償責任を負う場合があります。報じられている放火事件の事例のように、警備員個人の不祥事が原因であっても、会社側に高額の求償請求が及ぶことがあります。
Q2. 契約書に賠償責任の上限を定めておけば必ずその金額に収まりますか?
A. 契約当事者間では上限条項は重要な意味を持ちますが、保険の補償範囲との整合性も含めて確認することが望まれます。また、上限条項が否定される場合もあるので、弁護士と協議の上で正確な文言記載が望まれます。
Q3. 交通誘導中の事故は必ず警備会社の責任になりますか?
A. 一律には決まりません。誘導に従うか否かは運転手の判断であるとされる一方、誘導ミスが事故原因と評価されれば警備員・警備会社の責任が問われうるため、事故ごとの過失割合の検討が必要です。
8. 警備業者向けの初回無料面談のご案内
TECH GOAT PARTNERS法律事務所(第二東京弁護士会)の弁護士新井優樹(民事介入暴力対策委員会所属)は、反社会的勢力・カスタマーハラスメント等の不当要求対応を行い、これらのセミナー講師も担当しています。
取引先等から損害賠償請求をされている場合、保険会社からの求償請求を受けている場合、警備事故発生時の対応に不安がある場合には、初回の無料相談をお気軽にご利用ください。
初回の無料相談のお申し込みはこちら。