警備業

警備員の仮眠時間は残業代の対象か|仮眠時間に関する裁判例を弁護士が解説

警備員の仮眠時間は残業代の対象か|仮眠時間に関する裁判例を弁護士が解説
目次

0. はじめに

警備員の仮眠時間・宿直勤務が労働時間にあたるかどうかは、2024年5月17日の東京地裁判決(ジャパンプロテクション事件)でも改めて争われた警備業に固有の重大な労務リスクです。判断の枠組みは2002年2月28日の最高裁判決(大星ビル管理事件)が示していますが、結論は勤務実態と契約及び就業規則等の作り込み方によって変わります。


1. なぜ警備業で仮眠時間の労働時間性が繰り返し争われるのか

24時間勤務・宿直勤務が組み込まれた警備業務では、仮眠時間中も「警報が鳴ったら即応する」「1名体制で他に対応者がいない」という状態に置かれることが多く、仮眠時間が休憩なのか労働時間なのかが繰り返し裁判で争われてきました。

2. 判断枠組みを示した最高裁判例(大星ビル管理事件)

2002年2月28日の最高裁判決(大星ビル管理事件)では、不活動仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間にあたるとの判断を示しました。仮眠室での待機を命じられ、警報が鳴れば直ちに対応する義務がある状況では、実際に対応が発生しなかった時間も含めて労働時間と評価されうるという枠組みです。

同判決はあわせて、労基法上の労働時間にあたるからといって当然に通常の賃金請求権が発生するわけではなく、仮眠時間に対しどのような賃金を支払う合意がされているかという労働契約の内容によって結論が左右されるとも述べています。

3. 警備業における主要な下級審裁判例

3-1. イオンディライトセキュリティ事件(千葉地判平成29年5月17日)

イオンディライトセキュリティ事件(千葉地判平成29年5月17日)は、24時間勤務の警備員が、4時間の仮眠時間・30分の休憩時間について未払賃金の支払いを求めた事案です。千葉地裁は、警備が1人体制であり警報作動時には即応が求められていたこと、仮眠中も寝間着に着替えることがなく、実際に緊急対応のため出動した実績が複数回あったことを踏まえ、仮眠時間・休憩時間ともに労働からの解放が保障されていたとはいえないと判断し、付加金と合わせて約177万円の支払いを命じました。

同じ会社の別施設(3名体制で交代して仮眠を取ることができ、近くのコンビニに行くことも許容されていた店舗)については、労働時間性の判断が異なりうる要素として整理されている点も実務上参考になります。体制の人数と、実際に労働から解放されていたと言えるだけの運用実態があったかどうかが分かれ目です。

3-2. ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日)

ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日)は、ビルの夜間警備員が、仮眠時間は労働時間にあたるとして割増賃金等の支払いを求めた事案です。この判決では、2名体制で対応していた期間について、機械発報時の駆けつけ件数がごく少数であり、1名が仮眠を取る間もう1名が業務にあたれる体制であったことから、不活動仮眠時間について労働からの解放が保障されていると判断された部分があります。

一方で、この判決が実務上より重要な意味を持つのは別の点です。会社側は「調整手当」を固定残業代として扱っていましたが、東京地裁は、調整手当を固定残業代と扱うと基本給等を合計した金額を所定労働時間で除した額が当時の東京都の最低賃金を下回ることを理由に、固定残業代としての効力を否定しました。仮眠時間の労働時間性だけでなく、固定残業代制度そのものの有効性が争われ、否定されたという点は、多くの警備会社にとって直接的な警鐘です。

3-3. ビル代行業(宿直勤務)事件(東京地判平成17年2月25日)

ビル代行業(宿直勤務)事件(東京地判平成17年2月25日)は、宿直勤務における休憩・仮眠時間について、警備員が手当の支払いを求めた事案です。仮眠中も役務提供義務があったと評価された裁判例です。

4. 3つの裁判例から見える判断要素の整理

判断要素労働時間性が肯定されやすい労働時間性が否定されやすい
体制人数1名体制で交代要員がいない複数名体制で交代・分担が可能
即応義務警報発報時に直ちに対応する義務がある対応の必要が実質的にない、または他の者が対応する
実際の対応実績仮眠中の緊急対応実績が複数回ある呼び出し・対応実績が皆無に等しい
服装・行動制限制服のまま、仮眠室から離れられない私服に着替え、外出も可能

5. 固定残業代(定額残業代)制度の落とし穴

前述のジャパンプロテクション事件が示すとおり、固定残業代制度は「◯◯手当」という名目を付けただけでは有効になりません。実務上、固定残業代制度が有効と認められるためには、少なくとも次の点が就業規則・雇用契約書上明確になっている必要があるとされています。

  • 固定残業代に相当する時間外労働の時間数が明示されていること
  • 実際の残業時間がそれを超えた場合に差額を精算する運用が定められ、実際に運用されていること
  • 基本給と固定残業代部分が明確に区分されていること
  • その結果、時間単価に引き直した金額が最低賃金を下回らないこと

6. なぜ警備業の残業代請求は高額化・集団化しやすいのか

警備業の事業者が従業員や元従業員から残業代請求をされた場合、以下の理由から高額化・集団化しやすい傾向があります。

  • 1回の勤務が長時間に及び、争点となる時間数がそもそも大きい
  • 深夜割増(22時〜翌5時)が重なりやすい
  • 同一の勤務形態の警備員が複数名在籍しているため、1名の請求が同僚への波及・集団請求に発展しやすい
  • 賃金請求権の消滅時効は3年(当分の間の措置)とされ、遡及期間が長い

イオンディライトセキュリティ事件のように、1名の請求で約177万円(付加金込み)という金額が認容された例もあり、これが複数名分に及べば、中小規模の警備会社にとって事業の存続に関わる規模になり得ます。

7. 事前に整備すべきこと

警備業において不測の残業代請求を受けることを防止するためには普段の労務管理を適法に行う必要があります。具体的には以下は弁護士・社会保険労務士に相談すべき事項です。

  • 仮眠・休憩・手待ち時間の定義を明確にした就業規則・賃金規程
  • 体制人数別(1名体制/複数名体制)の運用ルールの明文化
  • 仮眠中の対応実績(緊急出動の有無・頻度)を記録する仕組み
  • 固定残業代制度の時間数・精算方法の明示と、実際の差額精算の運用
  • 現場直行直帰の警備員も含めた、労働時間の客観的な記録方法

8. よくあるご質問(FAQ)

Q1. 仮眠時間には必ず残業代を払わなければなりませんか?

A. 一律には決まりません。最高裁は、労働からの解放が保障されていない場合に労働時間にあたると判断する一方、労働時間にあたるとしても賃金請求権の有無・金額は労働契約上の合意内容によるとしています。

Q2. 「◯◯手当」を固定残業代として扱っていれば安心ですか?

A. いいえ。2024年5月17日の東京地裁判決では、固定残業代として扱っていた手当について、時間単価に引き直すと最低賃金を下回ることを理由に、その効力が否定されました。

Q3. 1名体制と複数名体制で対応は変えるべきですか?

A. 裁判例は体制人数を重要な判断要素としています。1名体制の現場については特に、仮眠時間の労働時間該当性を前提とした賃金設計を検討することが望まれます。

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TECH GOAT PARTNERS法律事務所(第二東京弁護士会)の弁護士新井優樹(民事介入暴力対策委員会所属)は、反社会的勢力・カスタマーハラスメント等の不当要求対応を行い、これらのセミナー講師も担当しています。

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