取締役会設置会社において監査役が全員退任した場合の対応

1 取締役会設置会社の法的要件
取締役会設置会社は、少なくとも1名の監査役を置く必要があります。なぜ監査役の存在必須なのか。それは、監査役が取締役の職務執行を監視し、法律や会社の定款の遵守を確保するという重要な役割を担っているためです。
では、取締役会設置会社が全ての監査役を辞任、死亡、または任期満了により失った場合にはどのように対応すれば良いでしょうか。
2 監査役全員が退任した場合の選択肢
取締役会設置会社がすべての監査役を失った場合、主に二つの選択肢があります。
(1) 選択肢1:新たな監査役を選任して取締役会設置会社を維持する
最初の選択肢は、新たな監査役を選任し、取締役会設置会社としての現在の体制を維持することです。具体的には以下の手続が必要になります。
株主総会を開催して新たな監査役を選任します。監査役の選任は株主総会の普通決議により承認される必要があります。
監査役の選任については、議決権を有する株主の参加と、出席した株主の過半数の承認が必要です。会社の定款で定足数について特定の要件を規定することができますが、議決権を有する株主の3分の1未満に減少させることはできません。
新たな監査役を選任する際、取締役は既存の監査役(複数の監査役がいる場合はその過半数、または監査役会設置会社の場合は監査役会)から事前の同意を得る必要があることに注意が必要です。ただし、すべての監査役が既に辞任している場合を除きます。
なお、新たな監査役が選任されたら、会社は2週間以内に登記変更を行う必要があるため、忘れないように注意しましょう。
選択肢2:監査役と取締役会の両方を廃止する
会社が新たな監査役を選任しないことを決定した場合、取締役会設置会社を維持することはできません。取締役会設置会社は監査役なしでは存在できないため、監査役が不在となる場合には同時に取締役会も廃止となります。この場合、以下の手続が必要になります。
株主総会の特別決議を通じて、取締役会と監査役の両方に関する規定を削除するよう会社の定款を変更します。
特別決議には、議決権の過半数を持つ株主の出席と、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
代表取締役の選出方法など、取締役会や監査役の存在を前提とする定款の他の規定も調整する必要があります。
なお、定款変更から2週間以内に登記変更が必要になる点にも注意が必要です。
3 スタートアップにおける柔軟な体制変更の必要性
スタートアップのように業績が比較的安定しない企業の場合には、市場構造の変化等によって売上が急激に減少することも珍しくありません。
監査役を設置し、取締役会設置会社に移行した後であっても、会社の立て直しが必要な財政状況に追い込まれた場合には、取締役会非設置会社に戻り、人件費を削減しつつ迅速な意思決定により立て直しを図ることが必要になるケースもあります。
一度取締役会設置会社に移行したからといって、その体制を維持することにこだわり続けることはやめましょう。
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