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【弁護士執筆】【条項例サンプル掲載】商標権の譲渡と商標権の移転登録申請手続き

【弁護士執筆】【条項例サンプル掲載】商標権の譲渡と商標権の移転登録申請手続き
目次

1 商標登録の必要性

(1)第三者による名称・ロゴ使用(フリーライド)

まず、商標登録が必要な理由から考えてみましょう。
商標登録を行わなくとも、自社の商品やサービスに名称やロゴを付して事業を開始することは可能です。もっとも、事業が成長すると、第三者が同一または類似の名称やロゴを使用して、知名度にフリーライドしてくることが懸念されます。第三者からすれば、既に一定の知名度がある名称やロゴを使用して自社商品やサービスを販売することで顧客の奪取と早期の収益実現が可能になるためです。

(2)第三者のフリーライドへの対応

ア 概要

第三者がフリーライドしてきたような場合、当然、その第三者に対して名称やロゴの使用をやめるように請求するのが自然です。

ここで、商標登録を行っていなかった場合には、不正競争防止法に基づく請求しかできません。不正競争防止法の保護を受けるためには、自社の商品が一定程度の知られていること等の要件を満たす必要があります。また、その権利保護の範囲には制限があるため、権利保護の程度としては強いとは言い難いものになります。

一方で、商標登録を行っていた場合には、①差し止め請求、②損害賠償請求、③信用回復措置の請求、④刑事責任の追及が可能です。

イ ① 差し止め請求

具体的には、侵害行為の停止の請求、侵害の要望の請求、侵害行為を組成した物の廃棄、侵害の甲に利用した設備の除却その他の侵害の予防に必要な措置の請求が可能です(商標法第36条)。

ウ ② 損害賠償請求

商標法に基づく損害賠償請求の場合、損害賠償額の算定規程を活用することができます(商標法第38条第1項)。また、侵害行為を行った者の故意または過失について、過失があったものと推定されます(商標第39条)。民法の不法行為に基づく損害賠償請求に比べ、立証の負担が軽減されており損害賠償請求のハードルが下がっている点がポイントです。

エ ③ 信用回復措置の請求

商標法では、業務上の信用を害した田茂に対して、信用を回復するための措置を命じることができるとされています(商標法第39条)。具体的には、謝罪広告の掲載が挙げられます。

オ ④ 刑事責任の追及

商標権を侵害した者は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金に処されます(商法第78条)。また、法人については、実行行為者に加えて法人にも罰金刑が課される両罰規定となっています(商標法第82条)。

2 商標権の譲渡手続

(1) 概要

商標権の譲渡は、一般的な契約と同様に口頭でも可能です。もっとも商標権の譲渡にあたっては下記の事項について定めることが望ましいです。なお、商標権の移転登録申請については後述します。

  • 譲渡対象となる商標権
  • 譲渡対価及び支払方法
  • 移転登録申請に関する手続への対応及びその費用
  • 譲渡人の表明保証

(2) 譲渡対象となる商標権

実際問題として、譲渡対象がわからなくなることは考えにくいところですが、譲渡人が複数の商標権を持っているケースもあるため、商標権の特定に必要な情報を記載するのが無難です。

≪条項サンプル≫

第●条(譲渡対象となる商標権の表示)
甲は乙に対して、以下に定める商標権を譲渡し、乙はこれを譲り受ける。
【商標権の表示】

商標登録番号 第●●号
商標     〇〇
商品・役務の区分 第●類、第●類

(3) 譲渡対価及び支払方法

商標権の譲渡は一般的には有償で行われることが多いと考えられます。仮に、経済的な価値が無い商標であれば譲渡対象になる可能性が低いためです。

≪条項サンプル≫

第●条(譲渡対価及びその支払)
1 乙は甲に対して、●年●月●日限り、本件商標の譲渡対価として金●円を支払う。
2 前項の対価の支払は、甲が別途指定する銀行口座に振込入金する方法によって支払う。

(4) 移転登録申請に関する手続への対応及びその費用

商標権の移転登録にあたっては、商標権の移転登録申請に必要な各種書類の授受が必要になります。また、補正命令があった場合に備えて、移転登録完了までは各種手続きへの協力義務を定めることが望ましいです。書類に不備があり、再度譲渡人に書類作成や必要書類の準備を求める可能性があるためです。

≪条項サンプル≫

甲は乙に対し、本件商標の譲渡対価の支払完了後●日以内に、本商標の移転登録に必要となる書類の一切を引き渡す等の移転登録に必要な手続きに協力する。なお、移転登録手続に要する費用は乙の負担とする。 

(5) 譲渡人の表明保証

商標の権利保有状況は商標登録証(登録証)、原簿、J-platpatで確認することができます。

もっとも、相対契約で商標権を第三者に譲渡している可能性や何らかの担保に供している可能性があります。これらは特許庁への登録申請等の手続は不要なものになるので、譲渡人から個別に確認するしかありません。

仮に、譲渡人から「確認されたような契約は無い」との回答を口頭で得たとしても、後から該当する契約が判明する可能性は0ではありません。その際に、口頭での言った/言わない論争に発展する可能性があります。

そのため、譲渡対象となる商標に関する表明保証を課すことで、万が一、当該商標に何かしらの問題が付随することが判明した場合には、当該問題の解決、契約の解除、損害賠償請求等を出来るようにしておくことが安全です。

≪条項サンプル≫

第●条(表明保証)
甲は乙に対し、本件商標に関して、以下に各号に定める事項を表明し、保証する。(1)    甲は、本件商標の譲渡に関して、必要な能力及び権限を有し、かつ、必要となる一切の社内手続を完了していること
(2)甲は、本商標権を適法かつ有効に保有していること
(3) 本商標権は有効に存続しており、商標登録無効審判も継続していないこと
(4)  本商標権につき、第三者より権利侵害等の主張を受けていないこと
(5) 本商標権につき、第三者に対する使用権又は担保権を設定はないこと
(6) 本商標権につき、差押え、仮差押、公租公課の滞納処分は行われおらず、仮処分の目的にもなっていないこと

3 商標権の移転登録申請手続

(1) 概要 

商標権の譲渡を受けた後には、商標権の移転登録申請を行い、商標権者の情報を更新する必要があります。その移転登録申請に必要な一般的な書類は以下のとおりです。なお、詳細は特許庁のHPにてご確認ください。書類を窓口で提出する際には、書類を一式左側をホチキス止めします。提出時に提出書類のコピーを持参すると受付印を押印してもらうことができます。

  • 商標権移転登録申請書
  • 譲渡証書
  • 印鑑登録証明書

(2) 商標権移転登録申請書

移転登録申請にあたって、単独申請か共同申請か、本人申請か代理人申請かによって特許庁のHPに公開されているフォーマットの記載を一部変更する必要があります。ケースバイケースで記載方法が変わる点に注意が必要です。なお、収入印紙への割印は不要です。後述の譲渡証書の収入印紙への押印は必要なため誤って割印しないようにしましょう。

(3) 譲渡証書

譲渡証書の作成にあたっても、単独申請の場合には、特許庁のHP記載のフォーマットを一部追記する必要がある点に注意しましょう。

(4) 印鑑登録証明書

譲渡人の印鑑登録証明書については、別の手続において既に印鑑登録証明書を提出しており、同一の印鑑を使用する場合には、その旨の疎明を行うことで提出が不要になります。

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