警備業

警備業に顧問弁護士は必要か|カスハラ・反社対応経験を持つ弁護士が解説

警備業に顧問弁護士は必要か|カスハラ・反社対応経験を持つ弁護士が解説
目次

警備業に顧問弁護士は必要か|カスハラ・反社対応経験を持つ弁護士が解説

1 警備業と法的リスク

警備業は特に「行政処分」「労務」「現場対応」の3つの領域において特に高い法的リスクを抱えています。また、他業種と比べて法的リスクの密度が高い業種です。

理由は次の3つに集約されます。

①警備業法という業法の規制を受け、違反すれば営業停止処分・認定取消しという事業の存続に直結する制裁がある 
②24時間勤務・仮眠・シフト制という勤務形態のため未払残業代請求が高額化しやすい
 ③現場で不特定多数の第三者と直接接触するため、カスハラ・不当要求・反社会的勢力との遭遇リスクが構造的に高い

さらに2026年10月1日には改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント対策が全事業主の法的義務となります。警備業は施設利用者・通行人・委託元担当者という三方向からカスハラを受けやすい業種であり、対応の優先度が高い業種です。

本記事では、警備会社が実際に直面する法的紛争の類型を、根拠条文と実務上の処分内容まで踏み込んで解説し、なぜ「顧問」という形で弁護士を確保しておくべきなのかを説明します。

2 警備業が直面する7つの法的リスク

警備業が直面する可能性の高いリスクは以下のとおりです。

リスク類型主な発生場面責任・損害等

①警備業法違反

教育未実施、名義貸し、違法派遣、書類の不備

営業停止処分・認定取消し・罰金

②労務トラブル

仮眠時間、24時間勤務、シフト管理、固定残業代

数百万〜数千万円規模の未払残業代請求

③カスハラ

施設利用者・通行人・委託元担当者からの暴言や過大要求

警備員の離職・精神疾患・安全配慮義務違反

④反社・不当要求

現場での因縁、取引先を装った接近、示談金要求

資金提供による暴排条例違反・信用失墜

⑤現場対応の違法性

万引き対応、酩酊者の排除、通行人との接触

逮捕監禁罪・損害賠償請求・報道被害

⑥警備事故

    盗難、火災、人身事故、機械警備の異常対応の遅れ

高額損害賠償・契約解除・失注

⑦下請・再委託

人手不足時の応援要請、名義貸しの疑い

双方への営業停止処分

2. リスク① 警備業法違反と行政処分

2-1. 警備業法違反は「一発で事業が止まる」タイプのリスク

警備業は都道府県公安委員会の認定を受けて営むもので(警備業法4条)、違反があれば指示処分・営業停止処分・認定の取消しという段階的な行政処分の対象となります。営業停止処分を受ければ、期間中は契約先への警備業務の提供ができなくなり、契約解除・失注・信用毀損が連鎖します。売上の減少にとどまらず、事業の継続そのものが危うくなる性質のリスクです。

2-2. 実務で多い違反類型

(1)警備員教育の懈怠

警備業者には、警備員に対する新任教育・現任教育を法定の時間数で実施する義務があります(警備業法第21条2項、警備業法施行規則第38条)。実務上想定されることは、「急に大口の現場を受注したが新任教育が間に合わず未教育のまま現場に配置してしまった」といったケースです。

処分の重さは、教育を実施した警備員の割合に連動する運用が一般的とされており、実施率が低いほど営業停止期間が長くなります。実施率が9割を超えていれば指示処分にとどまる一方、半数を割り込むと1か月程度の営業停止に至ることもあるとされています。「教育はしているが法定時間に少し足りない」という運用の緩みが、立入検査で一気に表面化するパターンが典型です。

(2)教育実施簿の虚偽記載

これは最も重い結果を招きます。立入検査に備えて、実際には教育していない警備員について「実施済み」と記載してしまうケースです。虚偽記載は罰金刑の対象となり、罰金刑を受けたことによって認定証の返納が命じられ、その後一定期間(5年間)警備業を営めなくなる事態に発展します。単なる行政処分では済まないという点で、社内に周知徹底しておく必要のある論点です。

(3)名義貸し

警備業法13条では、「警備業者は、自己の名義をもって、他人に警備業を営ませてはならない」と定められています。認定を持たない事業者に自社名義で警備をさせる行為が典型例ですが、実務上は再委託との線引きが問題になります。利用者の承諾を得ずに再委託を重ねると、形式的には委託契約でも名義貸しの潜脱と評価されるおそれがあります。

(4)警備員の違法派遣

警備業務は労働者派遣が禁止されています。人手が足りず他社の警備員に応援に来てもらう場面で、実態が「派遣」になっていると労働者派遣法違反となり、警備業法上の行政処分にもつながります。しかもこの処分は、派遣した側・受けた側の双方に及ぶのが通常です。

予防策のポイント:応援を受けるときは、発注者・自社・応援会社の三者間契約の形にしておくこと。人手不足が慢性化している業界だからこそ、緊急時に使える契約書のひな形を平時に準備しておくことが、そのまま行政処分の予防になります。

(5)欠格事由該当者の雇用

18歳未満の者や、暴力団員等の欠格事由に該当する者を警備員として従事させることはできません(警備業法第3条1項5号・第14条)。採用時のチェック体制が形骸化していると、それ自体が処分の対象となります。

2-3. 立入検査・行政処分を受けたときの対応

処分は「聴聞」等の手続を経て行われます。その際、事実関係の整理、意見書の提出、再発防止策の立案・報告といった局面で弁護士が関与する意味があります。処分の重さは、違反の悪質性だけでなく、会社側がどれだけ主体的に是正措置を講じたかによっても左右されます。検査を受けた直後の初動が、その後の処分内容を分けることは少なくありません。処分を受けた際には速やかに弁護士に相談し、その後の対応について十分な対策を講じることが重要です。

3. リスク② 未払残業代・仮眠時間の労働時間性

3-1. 「仮眠時間は労働時間か」という警備業最大の労務論点

24時間勤務・宿直勤務に組み込まれた仮眠時間の扱いは、警備業・ビル管理業に固有の重大論点です。

リーディングケースである大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日判決)は、不活動仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間にあたると判断しました。仮眠室での待機を命じられ、警報が鳴れば直ちに対応する義務があるという状況では、実際に対応業務が発生しなかった時間も含めて労働時間と評価されう、という枠組みです。

一方で同判決は、労基法上の労働時間にあたるからといって当然に通常の賃金請求権が発生するわけではなく、当該労働契約において仮眠時間に対しどのような賃金を支払う合意がされているかによって決まるとも述べています。つまり、労働契約・就業規則・賃金規程の設計次第で結論が変わる領域だということです。

その後の裁判例では、仮眠中の対応実績が皆無に等しいといった事情のもとで労働時間性が否定された例もあり、事案ごとの個別判断が働いています。裏を返せば、勤務実態と規程の作り込み方によって、企業側の未払賃金リスクは大きくコントロールできるということでもあります。

3-2. なぜ警備業の残業代請求は高額化しやすいのか

警備業の残業代請求は他の業種に比較しても高額化しやすい要因があります。例えば以下の要因が挙げられます。

  • 1回の勤務が長時間に及ぶため、争点となる時間数がそもそも大きい
  • 深夜割増(22時〜翌5時)が重なる
  • 同じ勤務シフトの警備員が複数いるため、1人の請求が集団請求に波及しやすい
  • 賃金請求権の消滅時効が3年(当分の間の措置)となり、遡及期間が長い

一人あたりの請求額が数百万円規模になる可能性があります。そして、それが10人・20人と続けば、中小の警備会社にとっては事業の存続に関わる金額になります。常に潤沢なキャッシュを保有している一部の企業を除き、黒字倒産のリスクもはらんでいます。

3-3. 事前に整備すべきもの

従業員・元従業員から残業代請求に備え、以下の事項は事前に運用を整えておく必要があります。

  • 仮眠・休憩・手待ち時間の区分を明確にした就業規則・賃金規程
  • 仮眠中の対応義務の有無・実際の対応実績を記録する仕組み
  • 固定残業代(定額残業代)制度の有効性を担保する規定(金額・時間数の明示と差額精算の運用)
  • 変形労働時間制・シフト表の適正な運用
  • 労働時間の客観的記録(現場に直行直帰する警備員の始業・終業の記録方法)

これらは「請求を受けてから」では手遅れになる典型例です。訴訟になった段階で規程の不備が判明しても、遡って直すことはできません。

4. リスク③ カスタマーハラスメント(2026年10月1日から義務化)

4-1. 改正労働施策総合推進法によりカスハラ対策が義務化

2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、2026年10月1日から、労働者を雇用するすべての事業主にカスタマーハラスメント対策の措置義務が課されます。中小企業・零細事業者も対象で、経過措置はありません。2026年2月26日には、事業主が講ずべき措置を具体化した指針も公布されています。

法律上のカスハラは、①顧客・取引先・施設利用者など事業に関係を有する者の言動であって、②社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されること、という3要件で定義されます。

4-2. 警備業はカスハラの「多方向被曝」業種

警備業が特殊なのは、カスハラの発生源が一方向ではない点です。

施設利用者・通行人から:交通誘導への暴言、指示に従わない通行人からの威圧、「誰の許可でやっている」といった因縁

委託元(クライアント)の担当者から:契約範囲を超える業務の押し付け、特定警備員の交代要求、「代えなければ契約を切る」といった圧力

近隣住民から:工事現場・イベント現場での騒音・通行制限に対する苦情のエスカレーション


しかも警備員は現場に一人または少数で配置されることが多く上長に相談しにくいこと、特に夜間には周囲に助けを求める人がいないケース多いことから、現場担当者が現場で孤立するという構造的な問題を抱えています。ここが小売・飲食との大きな違いです。

さらに、委託元からのカスハラは「取引を切られたくない」という力関係が働くため、会社として毅然と対応しにくいという難しさもあります。この点こそ、外部の弁護士を立てる意味が大きい場面です。

4-3. 事業主が講ずべき措置

警備業の事業主がカスハラ対応に関して行うべき措置としては以下が考えられます。

  • 方針の明確化と周知・啓発:就業規則・服務規律にカスハラを容認しない旨と禁止行為の例示、違反者への対応方針(出入禁止・契約解除・法的手続)を明記する
  • 相談体制の整備:相談窓口の設置と周知、相談者が不利益を受けないことと秘密が守られることの担保
  • 発生後の迅速・適切な対応:被害警備員の保護(現場からの一時的な切り離し)、事実確認と記録化
  • 抑止のための措置:悪質な相手方への警告書送付、サービス提供の拒絶、警察への届出
  • 外部機関との連携:弁護士・警察・行政との連携体制をあらかじめ構築しておく
  • 教育・研修の実施:現場警備員向けの初動対応研修と、隊長・現場責任者向けのエスカレーション判断研修

4-4. 対応しない場合のリスク

措置義務違反に直接の刑事罰はありませんが、助言・指導・勧告の対象となり、正当な理由なく勧告に従わない場合には企業名の公表という制裁が予定されています。加えて、カスハラを放置した結果として警備員が精神疾患を発症した場合、安全配慮義務違反(労働契約法5条)に基づく損害賠償請求を受けるリスクがあります。人手不足が深刻な警備業界において、カスハラ放置が離職と採用難を加速させる経営リスクである点も見逃せません。

4-5. 警備業ならではの実務ポイント

契約書にカスハラ条項を入れる:委託元との警備委託契約に、警備員に対する暴言・不当要求があった場合の協議・是正・契約解除の条項を設ける

記録の設計:ボディカメラ・現場記録・無線記録の運用ルールを、個人情報保護法・肖像権の観点から整理しておく

「誰が判断するか」の明文化:現場警備員に「カスハラかどうか」の判断をさせない。現場は記録と報告、判断は本部という役割分担をマニュアル化する

5. リスク④ 反社会的勢力・不当要求への対応

5-1. 警備業は反社会的勢力と接触しやすい業態

警備業は、①現場で不特定多数と接触する、②警備業法上の認定という許認可を持つ、③人手不足で下請・応援関係が複雑化しやすい、という3つの特徴から、反社会的勢力の接近を受けやすい業態です。

想定される接触場面は次のようなものです。

  • 現場で警備員の対応に因縁をつけ、示談金・見舞金を要求される
  • 一般企業を装った取引先として警備契約の受注を持ちかけられる
  • 応援・下請として入ってきた事業者の背後に反社会的勢力がいる
  • 「工事現場の警備をうちに回せ」といった形で下請参入を要求される
  • 賛助金、物品購入といった「接近型」の要求

5-2. 対応を誤った場合のリスク

企業が反社会的勢力に対して金銭を支払うことは、暴力団排除条例上の利益供与に該当しうる行為です。各都道府県の暴排条例では、反社会的勢力と知りながら取引を継続することについて、勧告・公表、悪質な場合には罰則の対象となる旨が定められています。警備業は許認可事業であるだけに、こうした事実が判明した場合の監督官庁からの評価も厳しくなります。

そして最大の問題は、一度応じてしまうとそれが弱みとなり、要求が反復・拡大するという点です。初動での対応方針の決定が決定的に重要となります。そのため、反社会的勢力対応への対応ノウハウを持った弁護士と普段から連携を取り対応方針を定めておくことが重要です。

5-3. 平時にやっておくべきこと(入口対策)

警備業の事業者が平時から講じておくべき施策としては以下が考えられます。

①暴力団排除条項の整備
警備委託契約・下請契約・雇用契約すべてに、反社会的勢力でないことの表明・確約と、該当が判明した場合の無催告解除条項を入れる

②反社チェック体制の構築
取引開始前のスクリーニング手順、調査記録の残し方、判断基準の社内ルール化

③不当要求防止責任者の選任・届出
暴力団対策法に基づき、事業所ごとに不当要求防止責任者を選任し、公安委員会の講習を受けさせる仕組みを整える

④対応マニュアルの整備
応対人数、時間、場所、録音の可否、その場で回答しないという原則の明文化

5-4. 有事の対応(出口対策)

警備業の事業者が実際に反社や不当要求者から接触された場合の施策としては以下が考えられます。

①対応窓口を一本化し、現場警備員・現場責任者に個別対応させない

②面談内容の録音・記録を徹底し、要求内容と対応経過を時系列で保全する

③弁護士名での警告書・通知書の送付により、法的対応を辞さない姿勢を明示する

④警察・暴力追放運動推進センターとの連携

⑤面談強要禁止・業務妨害禁止の仮処分、損害賠償請求、刑事告訴を検討する

弁護士を「窓口」として立てること自体が、要求を止める効果を持ちます。 相手方にとって、法的手続を前提に対応してくる相手は労力に見合わないからです。

6. リスク⑤ 現場対応の適法性(有形力の行使・私人逮捕)

6-1. 警備員は「特別な権限」を持たない

警備業法15条は、警備業者と警備員は警備業務を行うにあたり、この法律により特別に権限を与えられているものではないことに留意するとともに、他人の権利および自由を侵害してはならないと定めています。警備員は警察官ではなく、あくまで私人としての立場で行動しているという大前提です。

6-2. 現行犯逮捕・取り押さえの限界

万引き犯や侵入者に対する現行犯逮捕は、私人にも認められています(刑事訴訟法213条)。逮捕に伴う有形力の行使も、必要かつ相当と認められる限度では違法性が阻却されると解されています。逮捕した場合は直ちに警察官等に引き渡す義務があります(同法214条)。

問題は、この「必要かつ相当な限度」を超えた場合です。

  • 万引きの事実がなかった(誤認)にもかかわらず取り押さえた
  • 取り押さえの態様が過剰で相手方が負傷した
  • 事務所に長時間留め置いて事情聴取をした、被害弁償の交渉をした

これらは、逮捕監禁罪(刑法220条)や不法行為(民法709条)を構成しうる行為です。警備員個人だけでなく、使用者責任(民法715条)により警備会社も、さらに施設管理者である委託元も損害賠償責任を問われる構造になります。誤認事案が報道やSNSで拡散すれば、レピュテーションへの打撃は賠償額以上のものになりかねません。

6-3. 「事前の対応マニュアル」の重要性

上記リスクを回避するために以下の事項を定めた事前の対応マニュアルを定めておくことが重要です。

  • 声かけの手順(どの時点で、何を根拠に、誰の判断で声をかけるか)
  • 確保後の対応手順(引き渡しまでの時間、留め置きの可否、聴取をしないこと)
  • 有形力を行使してよい場面と限界
  • 防犯カメラ映像の確認手順と保全
  • 委託元との責任分担の取り決め

これらを法的根拠を踏まえて言語化し、研修で現場に落とし込むところまでを、弁護士と一緒に設計しておくのが実務的な備えです。

7. リスク⑥ 警備事故と損害賠償・契約責任

7-1. 警備事故は「賠償額の予測が難しい」

警備業務中に発生する事故には、次のようなものがあります。

  • 常駐警備先での盗難・侵入・火災
  • 機械警備における異常信号への対応の遅れ(警備業法上、機械警備業者には即応体制の整備義務があります)
  • 交通誘導警備における人身事故・車両事故
  • 輸送警備における現金・貴重品の紛失
  • 警備員自身の不祥事(横領、施設内での違法行為)

警備員自身の故意による事件では、被害額が極めて高額に及んだ例も報じられています。会社としては、使用者責任と契約上の債務不履行責任の双方を問われることになります。

7-2. 契約書の責任範囲条項が生死を分ける

警備委託契約における損害賠償の範囲・上限・免責の定め方は、実際に事故が起きたときの負担額を左右します。

しかし現実には、

  • 委託元が用意した契約書に、無限定の賠償責任条項が入っている
  • 「警備業務の懈怠により生じた一切の損害を賠償する」といった包括的な文言になっている
  • 免責事由(不可抗力、委託元の指示に起因する場合等)が定められていない
  • 保険でカバーされる範囲と契約上の責任範囲がずれている

といった状態のまま契約している警備会社は少なくありません。
契約締結前の書面交付義務(警備業法19条)を形式的に満たしていても、責任範囲の設計が甘ければ意味がありません。

契約書のリーガルチェックは、警備業においては「万一の賠償額を数千万円単位で変える作業」です。 賠償責任保険の内容と契約上の責任範囲を突き合わせて確認する作業も含め、顧問弁護士が継続的に関与する価値が最も分かりやすく出る領域といえます。

7-3. 苦情対応義務との関係

警備業法20条は、警備業務に関する苦情の適切な解決を求めています。クレーム対応は「顧客サービス」の問題であると同時に、業法上の要請でもあるという二面性を理解しておく必要があります。顧客等からの正当な要望をカスハラとして安易に断定しないよう注意が必要です。

8. リスク⑦ 人材・下請・再委託にまつわる紛争

慢性的な人手不足を背景に、警備業では以下のような紛争が生じます。

①応援・下請関係の法的整理
前述の違法派遣・名義貸しの問題

②問題社員対応
無断欠勤、現場での飲酒、居眠り、制服のまま逸脱行為、SNSへの現場写真投稿

③懲戒処分の有効性
現場からの排除と懲戒解雇は別問題。処分の相当性を欠けば地位確認訴訟に発展する

④警備員の引き抜き・独立
現場ごと持って行かれるケース。競業避止義務・秘密保持の設計

⑤外国人材の受入れ
在留資格の適法性確認(不法就労助長罪のリスク)

⑥委託元からの一方的な契約解除・単価据え置き
交渉の余地と法的手段の整理

⑦警備員の労災
交通誘導中の被災、熱中症、暴行被害。労災対応と安全配慮義務違反の損害賠償請求は別物

9. なぜ「単発相談」ではなく「顧問弁護士」なのか

9-1. 警備業のリスクは「起きてから」では間に合わない

ここまで見てきたリスクには共通点があります。結果が決まるのは、トラブルが起きた後ではなく、その前の書面・規程・体制の作り込みの段階だということです。

未払残業代請求 → 争点になるのは数年前の就業規則と賃金規程

営業停止処分 → 争点になるのは日々の教育実施簿と管理体制

警備事故の賠償 → 争点になるのは締結済みの契約書の条項

カスハラの安全配慮義務違反 → 争点になるのは相談窓口と対応マニュアルの有無

訴訟や処分が現実化してから弁護士を探しても、これらを遡って直すことはできません。顧問弁護士の本質的な価値は、訴訟対応そのものよりも、「そもそも争点にさせない状態」を平時に作っておくことにあります。

9-2. 初動の速さが結果を変える

反社対応、カスハラ、警備事故、立入検査は、いずれも初動の数時間から数日で方向性が決まります。顧問契約があれば、「まず誰に何を聞けばいいか」を探す時間がゼロになります。事案の背景を既に知っている弁護士に、その場で電話一本で相談できることの価値は、平常時には見えにくいものの、有事には決定的です。

9-3. 「弁護士がついている」こと自体の抑止力

不当要求をする相手方は、必ず「押せば通るか」を試してきます。「当社は顧問弁護士に確認のうえ対応します」という一言が言えるかどうかで、その後の展開は大きく変わります。悪質なクレーマーや反社会的勢力に対しては、法的措置の可能性を早期に示すこと自体が最も効果的な抑止となります。HPに顧問弁護士名を記載しておくとなお良いでしょう。

9-4. 現場責任者を守り、経営者の判断を軽くする

警備業では、隊長・現場責任者が一人で判断を背負わされがちです。「本部が弁護士と繋がっていて、迷ったら上げれば守ってもらえる」という状態を作ることは、現場の心理的安全性に直結し、結果として定着率にも影響します。人材確保が経営課題である業界において、これは無視できない効果です。

9-5. 費用面での合理性

トラブルのたびに弁護士を探し、事情説明から始めて着手金を支払うより、顧問契約で継続的に相談できる体制のほうが、総額としては抑えられるケースが多くあります。加えて、契約書チェックや規程整備といった「頼むほどではないが放置したくない」レベルの相談を気軽に投げられる点が、実務上の最大のメリットです。

10. TECH GOAT PARTNERS法律事務所の警備業専用顧問契約

TECH GOAT PARTNERS法律事務所では、反社会的勢力・半グレ・トクリュウ・カスハラ対応へのノウハウを生かした警備業専用顧問契約をご用意しております。警備業専用顧問契約のサービス内容は以下のとおりです。なお、各警備業者様のご状況や予算応じて内容のカスタマイズを行います。

平時のサービス内容(予防法務)
サービス詳細

契約書の作成・レビュー  

 警備委託契約書、下請・応援に関する三者間契約書、機械警備契約書の責任範囲・免責条項の設計

就業規則・賃金規程の整備   

仮眠・手待ち時間の定義、固定残業代制度の適法性確保、シフト制に対応した規程設計

カスハラ対応体制の構築   

 2026年10月施行の改正法に対応した方針策定、相談窓口の設計、対応マニュアル作成、警告書ひな形の準備
反社チェック体制の構築暴力団排除条項の整備、表明保証書式の作成、スクリーニング手順とその記録方法の設計
現場対応マニュアルの作成

 有形力の行使・私人逮捕の限界、留め置きの可否、記録・保全の手順

警備業法コンプライアンス  

 教育実施体制、名義貸し・違法派遣の予防、立入検査への備え

社内研修・セミナー

現場警備員向け・管理職向けそれぞれに、実際の事案を踏まえた研修を実施しています(詳細は次項)


有事のサービス内容(トラブル発生時の法務)

カスハラ・クレーム対応

対応方針の策定、代理人としての交渉、警告書・内容証明の送付、出入禁止措置の法的整理

 反社会的勢力・不当要求対応 

窓口の引受け、警告書送付、警察・暴追センターとの連携、面談強要禁止等の仮処分、刑事告訴

  労務トラブル

未払残業代請求への対応、労働審判・訴訟対応、問題社員の懲戒・退職に関する助言

警備事故対応

事実関係の整理、責任範囲の検討、委託元・被害者との示談交渉、訴訟代理

行政対応

 立入検査への対応、聴聞手続、意見書の作成、再発防止策の立案と報告

 誹謗中傷・風評対応 

 SNS・口コミサイトへの投稿の削除請求、発信者情報開示請求

社内研修・セミナー

現場警備員向け・管理職向けそれぞれに、実際の事案を踏まえた研修を実施しています(詳細は次項)

11. セミナー・研修の実績

TECH GOAT PARTNERS法律事務所では、企業向けに以下のテーマでのセミナー・研修を実施した実績があります。

①カスタマーハラスメント対応研修
カスハラと正当なクレームの線引き、初動対応、記録の取り方、エスカレーション基準、法改正への実務対応

②反社会的勢力・不当要求対応セミナー
接近型・攻撃型それぞれの手口と兆候、応対の原則、断り方の実践、警察との連携のタイミング

いずれも、抽象的な法律論ではなく「現場で実際にどう言い、どう記録し、どこで上に上げるか」という行動レベルまで落とし込む構成にしています。カスハラ対応が法的義務となる2026年10月に向けて、社内研修の実施をご検討中の警備会社様は、ご相談ください。

12. よくある質問(FAQ)

Q1. 警備業に顧問弁護士は本当に必要ですか?

A. 警備業は、①警備業法という業法規制、②長時間・仮眠を含む特殊な勤務形態、③現場での第三者との直接接触、という3つの要素が重なる業種です。いずれも、問題が起きてからでは対処しきれず、事前の書面・規程・体制整備によってしかリスクを下げられない領域です。この「継続的な整備」を担うのが顧問弁護士の役割であり、必要性は高いといえます。

Q2. 従業員10名程度の小さな警備会社でも依頼できますか?

A. 可能です。むしろ小規模事業者ほど、法務担当者を置けないため外部の弁護士に依存する必要性が高くなります。カスハラ対策義務化についても、中小企業への経過措置はありません。まずは契約書のひな形整備と就業規則の見直しといった、優先度の高い部分から着手する進め方をご提案しています。

Q3. 仮眠時間には残業代を払わなければならないのですか?

A. 一律に決まるものではありません。最高裁は、仮眠時間中に労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間にあたると判断する一方、労働時間にあたるからといって当然に通常の賃金請求権が発生するわけではなく、労働契約上どのような合意がされているかによると述べています。実際の勤務実態と、就業規則・賃金規程の定め方の両面から検討する必要があります。現状の運用が争われた場合にどうなるかを確認したい、という場合にもお気軽にご相談ください。

Q4. カスハラ対策は2026年10月までに何をすればよいですか?

A. 最低限、①就業規則等へのカスハラ方針の明記、②相談窓口の設置と社内周知、③対応マニュアルの整備、の3点は施行日までに揃えておくことが望まれます。警備業の場合はこれに加えて、委託元との契約書にカスハラが生じた際の協議・是正条項を入れておくことを推奨しています。

Q5. 委託元(クライアント)の担当者からのハラスメントも対象になりますか?

A. 改正法上のカスハラは「顧客、取引の相手方、施設の利用者その他事業に関係を有する者」の言動を対象としており、取引先の担当者からの言動も含まれ得ます。もっとも、取引関係がある以上、対応には慎重さが求められます。契約解除まで見据えるのか、まず是正の申入れにとどめるのかといった方針決定の段階から、弁護士と相談しながら進めることをお勧めします。TECH GOAT PARTNERS法律事務所の代表弁護士は自身が事業会社を運営しているため、法的な判断だけではなくビジネスジャッジも踏まえた上での現場対応のご提案が可能です。

Q6. 現場で不当要求を受けたとき、その場でどう対応させるべきですか?

A. 原則は「その場で回答しない・約束しない・金銭を渡さない」の3点を現場に徹底させ、記録を取ったうえで速やかに本部へ上げさせることです。現場警備員に判断させない体制を作ることが、会社と警備員本人の双方を守ります。具体的な応対文言まで含めたマニュアル化と研修が有効です。

Q7. 警備員が万引き犯を取り押さえた際、会社が責任を負うことはありますか?

A. あります。取り押さえの態様が必要かつ相当な限度を超えていた場合や、そもそも犯罪事実がなかった(誤認)場合には、警備員個人の不法行為責任に加え、会社が使用者責任を問われる可能性があります。事前の手順書と教育の有無は、責任の判断においても、また保険対応や委託元との責任分担の交渉においても重要な要素になります。

Q8. 顧問契約を結ぶタイミングの目安はありますか?

A. 「新しい大口の現場を受注した」「立入検査の予定がある」「委託元から新しい契約書を提示された」「未払残業代の請求を受けた同業他社の話を聞いた」「法改正で何をすべきかわからない」といったタイミングが典型です。もっとも、最も費用対効果が高いのは、何も起きていない時期に規程と契約書を整えておくことです。

Q9. 単発の相談だけでも対応してもらえますか?

A. 対応可能です。ただし警備業の場合、契約書・就業規則・現場マニュアル・研修が相互に関連しており、単発では部分最適にとどまりやすい面があります。まず単発でご相談いただき、そのうえで顧問契約をご検討いただく流れでも問題ありません。

まとめ

警備業は、警備業法違反による行政処分、仮眠時間をめぐる未払残業代請求、カスハラ、反社会的勢力からの不当要求、現場対応の適法性、警備事故の賠償責任という、性質の異なる複数の法的リスクを同時に抱える業種です。

そして、これらのリスクの帰趨は、いずれもトラブルが起きる前に整備された契約書・規程・マニュアル・記録によって決まります。2026年10月1日のカスハラ対策義務化は、その体制を見直すひとつの明確な期限といえます。

TECH GOAT PARTNERS法律事務所では、カスハラ対応・反社会的勢力対応・不当要求対応の実務支援に加え、これらをテーマとしたセミナー・研修の実施実績もございます。また、実際に反社会的勢力を相手方とする裁判実績もございます。警備業に理解のある顧問弁護士をお探しの警備会社様は、お気軽にご相談ください。

初回は弁護士の雰囲気や知見を確認していただくための無料の面談が可能です。

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≪執筆者≫
TECH GOAT  PARTNERS法律事務所 弁護士新井優樹
第二東京弁護士会・民事介入暴力対策委員会所属