警備業

警備員に特別な逮捕権限はない|私人逮捕と有形力行使の限界を弁護士が解説

警備員に特別な逮捕権限はない|私人逮捕と有形力行使の限界を弁護士が解説
目次

0. はじめに

警備業法15条は、警備員が警備業法によって特別な権限を与えられた存在ではないと明記しています。万引き犯を取り押さえる行為も、交通誘導も、法律上は「私人」としての行為にすぎません。

警備業法第15条(警備業務実施の基本原則)

「警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たつては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。」


1. 警備員は「特別な権限」を持たない(警備業法15条)

前述のとおり、警備業法15条は、警備業者と警備員が警備業務を行うにあたり、この法律により特別に権限を与えられているものではないことに留意するとともに、他人の権利および自由を侵害してはならないと定めています。

この点は交通誘導警備でも同様です。警備員の交通誘導には、運転手を法的に従わせる権限はありません。交通誘導はあくまで「お願い」に過ぎず、これに従うかどうかは運転手自身の判断に委ねられていると解されています。

裁判例においても、警備員の交通誘導に従って事故が起きた場合、事故の原因は交通誘導そのものではなく、それに従うと決めた運転手自身の判断にあるとされる傾向があります。

もっとも、これは警備員に一切の責任が生じないことを意味するものではなく、誘導ミスが事故の原因と評価される場合には、警備員個人・警備会社ともに民事責任を問われうる点には注意が必要です。

2. 現行犯逮捕・取り押さえの限界

万引き犯や侵入者に対する現行犯逮捕は、私人にも認められています(刑事訴訟法213条)。

刑事訴訟法第213条

「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」

警備員や、いわゆる「万引きGメン」も民間人であって警察官ではありませんが、現行犯逮捕自体は誰でも行うことができます。

そして、逮捕に伴う有形力の行使も、必要かつ相当と認められる限度では違法性が阻却される(=適法な行為として扱われる)と解されていま。逮捕した場合は、直ちに警察官等に引き渡す義務があります(刑事訴訟法214条)。

問題となるのは、この「必要かつ相当な限度」を超えた場合です。

  • 万引きの事実がなかった(誤認)にもかかわらず取り押さえた
  • 取り押さえの態様が過剰で、相手方が負傷した
  • 事務所に長時間留め置いて事情聴取をした、被害弁償の交渉をした

なお、万引きの現場を取り押さえられそうになった者が抵抗して暴行を加えた場合には、事後強盗罪(刑法238条)が成立しうるとされ、強盗罪と同じ法定刑(5年以上の有期拘禁刑)が科される可能性があります。

3. 誤認事案が発生した場合の損害賠償リスク

誤認による身柄拘束が生じた場合、相手方に故意または過失があったことを立証できれば慰謝料請求が可能とされています。

ここでいう過失の有無は、本人から丁寧に事情を聴いたか、防犯カメラの映像を確認したかなど、逮捕に至るまでの手続の適切さによって判断される傾向があります。

警察による誤認逮捕の事例では、捜査の違法性の程度によりますが、数十万円から100万円程度の慰謝料が認められる可能性もあるのではないでしょうか。

警備員個人だけでなく、使用者責任(民法715条)により警備会社も、さらに施設管理者である委託元も損害賠償責任を問われる構造になります。

なお、使用者責任とは、従業員などが仕事中に第三者へ損害を与えた場合、雇用主などの使用者がその第三者(=被害を受けた人)に対して損害賠償責任を負う仕組みのことです。これは、使用者は従業員を使用して利益を得ている以上、従業員による損害についても一定の範囲で責任を負うべきであるという考えに基づくものです。

4. だからこそ「事前のマニュアル」が有効な理由

誤認逮捕発生時の事業者側の過失の有無は「適切な手続を経ていたか」で判断される傾向があります。

裏を返せば、次のような手順をあらかじめ言語化し、教育・訓練で現場に落とし込んでおくことが、誤認事案発生時の責任評価にも直接影響するということです。

  • 声かけの手順(どの時点で、何を根拠に、誰の判断で声をかけるか)
  • 確保後の対応手順(引き渡しまでの時間、留め置きの可否、聴取をしないこと)
  • 有形力を行使してよい場面と限界
  • 防犯カメラ映像の確認手順と保全方法
  • 委託元との責任分担の取り決め

5. 交通誘導警備における責任の考え方

交通誘導警備では、警備員に事故を起こさせない法的な強制力がないという特殊性がある一方で、誘導ミスそのものが事故の原因と評価される場合には、警備員に民事責任が生じ、使用者責任により警備会社にも責任が及びうるとされています。被害者は、資力の観点から警備員個人ではなく警備会社に対して損害賠償を請求することが一般的です。

6.よくある質問(FAQ)

Q1. 警備員が万引き犯を取り押さえること自体は違法ではないのですか?

A. 現行犯逮捕は私人にも認められており(刑事訴訟法213条)、必要かつ相当な限度での有形力の行使も許容されると解されています。違法となるのは、この限度を超えた場合や、そもそも犯罪の事実がなかった場合です。

Q2. 誤認して取り押さえてしまった場合には必ず損害賠償責任を負いますか?

A. 一律には決まりません。防犯カメラの確認や丁寧な事情聴取など、逮捕に至るまでの手続が適切であったかどうかによって、過失の有無が判断される傾向にあります。

Q3. 交通誘導中に事故が起きた場合、警備員は必ず免責されますか?

A. いいえ。交通誘導に法的な強制力がないことと、誘導ミスによって事故が生じた場合に民事責任を負うかどうかは別の問題です。

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TECH GOAT PARTNERS法律事務所(第二東京弁護士会)の弁護士新井優樹(民事介入暴力対策委員会所属)は、反社会的勢力・カスタマーハラスメント等の不当要求対応を行い、これらのセミナー講師も担当しています。

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