警備業の人手不足と違法派遣リスク|警察庁の最新統計と2026年摘発事案を弁護士が解説
0. はじめに
警察庁が2025年12月22日に公表した「省力化投資促進プラン―警備業―」によれば、警備業の有効求人倍率は全職業平均の約6倍に達し、65歳以上労働者の割合も全職業平均の2倍以上という深刻な人手不足・高齢化に直面しています。
この構造的な人手不足が、応援・下請関係における労働者派遣法違反という新たなリスクを生んでおり、2026年2月には千葉県警による摘発事案も報じられました。
1. 警察庁が公表する警備業の人手不足の実態
前述の「省力化投資促進プラン―警備業―」によれば、警備業は過酷な労働環境・低賃金のため人手不足が深刻化しており、2025年9月時点の有効求人倍率は警備業6.70倍に対し全職業平均は1.10倍と、約6倍の開きがあります。
さらに警備員は離職率が高く高齢化が進んでおり、2024年における65歳以上の労働者の割合は警備業で34.3%、全職業平均では13.6%と、こちらも2倍以上の差があります。加えて、警備業務は危険と隣り合わせであり、令和6年には28名の警備員が業務中の事故により殉職したとされています。
警備業の市場規模は、「令和6年における警備業の概況」(警察庁)によりますと、売上高が約3.4兆円(一般社団法人全国警備業協会調査) となっています(出典:経済産業省「安全・安心を守るサービス ~ 警備業 ~」)。もっとも、全国の警備業者のうち警備員数100人未満の事業者が全体の約9割を占めるとされ(出典:一般社団法人全国警備業協会「警備業の概況」)、中小規模の事業者が多い業界構造も踏まえた対策が必要です。
2. なぜ人手不足が違法派遣リスクにつながるのか
警備業務は労働者派遣法上、原則として労働者派遣が禁止されている業務です。人手不足の中で「今日だけ他社に応援を頼む」という運用が常態化しやすい業界ですが、この運用が労働者派遣法違反と評価されるかどうかは、契約書の形式ではなく、現場で実際に指揮命令を行っているのが誰かという実態によって判断されます。
3. 【2026年2月】千葉県警による書類送致事案
2026年2月、千葉県警により、交通誘導警備員が委託元とは別の会社の指揮命令下で業務に従事していた疑いがあるとして書類送致される事案が報じられました。契約書上は業務委託や応援体制となっていても、実態として他社が直接指示を出していた場合には違法派遣と判断される可能性があるという典型例です。
4. 名義貸しとの違いと注意点
警備業法13条は、自己の認定名義で他人に警備業を営ませることを禁止しています(名義貸しの禁止)。再委託の手続を適切に踏まずに他社警備員を応援として使う運用は、名義貸しの潜脱と評価されるリスクもはらんでいます。
5. 実務上の予防策
違法派遣を防ぐための予防策としては以下の施策が考えられます。
- 応援を受ける際は、発注者・自社・応援会社の三者間契約の形式を検討する
- 現場での指揮命令系統を契約書上明確にし、実際の運用もそれに従う
- 再委託を行う場合は、委託元の承諾を得た上で、認定状況を確認した事業者にのみ委託する
- 応援・下請に関する社内ルールを整備し、現場責任者に周知する
6. 外国人材の受入れと在留資格の確認
人手不足への対応として外国人材の採用を検討する事業者も増えていますが、在留資格の範囲内での就労であるかどうかの確認を怠ると、不法就労助長罪のリスクが生じます。
労働基準法は国籍を問わず適用され、賃金その他の労働条件について差別的な取扱いをすることは禁止されています。
また、新任教育(法定20時間以上)の多言語対応や通訳の手配など、日本人採用にはない実務上のコストが生じる点も踏まえた計画が必要です。
7. 問題社員・労災など人材にまつわるその他の紛争
警備業の運営事業者の人にまつわる法的な問題は違法派遣や外国人人材の登用に限られず、下記の様な多様な人的リスクを抱えています。
- 無断欠勤、現場での逸脱行為等に対する懲戒処分の相当性
- 現場ごと持って行かれる形での警備員の引き抜き・独立と、競業避止義務・秘密保持の設計
- 警備員の労災(交通誘導中の被災、熱中症等)と、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求は別の問題として整理する必要がある
8.よくある質問(FAQ)
Q1. 忙しいときに他社の警備員に手伝ってもらう場合、必ず違法になりますか?
A. 一律には違法になりません。重要なのは、現場で実際に指揮命令を行っているのが誰かという実態です[5]。
Q2. 警備業界の人手不足は今後改善する見込みはありますか?
A. 警察庁の統計では、有効求人倍率・高齢化率ともに全職業平均を大きく上回る状況が続いています。警察庁は省力化投資や業界団体を通じた優良事例の横展開を促進策として掲げていますが、構造的な課題として当面は継続すると考えられます。
Q3. 外国人材を採用する場合、日本人と同じ待遇にする必要がありますか?
A. はい。労働基準法は国籍にかかわらず適用され、賃金等について国籍等を理由とした差別的取扱いは禁止されています。
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TECH GOAT PARTNERS法律事務所(第二東京弁護士会)の弁護士新井優樹(民事介入暴力対策委員会所属)は、反社会的勢力・カスタマーハラスメント等の不当要求対応を行い、これらのセミナー講師も担当しています。また、解雇紛争や未払残業代、問題従業員対応、外国人雇用対応などの労働問題への対応実績もあります。
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