【弁護士執筆】【条文サンプル有り】創業株主間契約書の必要性と定めるべき内容
1. 創業株主間契約
(1)創業株主間契約とは
スタートアップを複数人で創業し、それぞれが株式を保有するような場合に、創業時の株主の間で締結する契約を創業株主間契約といいます。創業時の株主が必ずしも取締役に就任するとは限りませんが、スタートアップでは「創業時の株主=取締役」であることが多いため、本記事では、「創業時の株主=取締役」であることを前提とします。
(2)創業株主間契約の目的
スタートアップを創業した後、経営方針に関する意見の不一致、会社の業績の悪化、創業株主のライフステージの変化、価値観の変遷等によって創業株主が取締役を退任し、従業員としても会社に残らないこととがあります。
このように創業株主が会社からは離れる際に、会社に残っている他の創業株主が会社から離れる創業株主から株式を買い取ることができる権利を定めることが創業株主間契約の主な目的です。
(3)退任・退社する創業株主から株式を買い取る必要性
退任・退社する創業株主から株式を買い取る理由としては下記の様なものが考えられます。
- ①退任・退社後は会社の企業価値に貢献しないのに株価向上の利益を享受できるのは不合理
- ②退任・退社後に連絡が取れなくなってしまう可能性
①については、「退任・退社までの貢献があるため、その後の株価向上の利益を享受できる権利はある」という考えもあるところです。この考え自体は合理性があるため、後述する通り会社の在籍期間に応じて買取を求められる株式数を制限する定めを置くこともあります(リバースべスティング)。
②については、特に、退任・退社理由が、経営方針に関する意見の不一致などに基づく場合であって友好的な関係性を維持できていない場合に問題になります。SNSで連絡できる場合はともかく、連絡先が一切わからなくなってしまうケースもあり、株主総会関係の連絡やM&A時の株式譲渡に関する連絡も行うことが困難になるといったことが懸念されます。
2. 創業者株主間契約で定めるべき事項
(1)はじめに
創業者株主間契約で定める事項は画一的に決まっていません。そのため、前述の創業株主間契約を締結する目的やその必要性を踏まえて定める事項を考えていく必要があります。以下、一般的に定めることが多い事項を具体的に解説します。
(2)退任・退社時の株式譲渡義務
創業株主間契約は退任・退社した創業株主から株式を買い取ることを主たる目的としているため、退任・退社時の株式譲渡に関して定めることが一般的です。
退任・退社事由としては以下のパターンが考えられます。
- ①取締役としての地位を喪失したが、従業員としての地位は残る場合
- ②取締役・従業員のいずれの地位も喪失した場合
①の場合、取締役としての地位は喪失するものの、今後は従業員として会社に貢献することになるため、直ちに株式を買い取る必要性は無いと考えられます。もっとも、一般的に、従業員よりも取締役の方が会社に対して負っている責任が重く、上流の業務を行うことから貢献度が高いと考えられるため、持株比率を低くする形で一部買い取ることが適切なケースも存在します。
②の場合、会社との関係性が一切無くなるため、基本的には買取を行うことになります。もっとも、在任・在籍時の貢献度が高い場合には、持株比率にもよりますが、買取を行わない、または前述のリバースべスティングによる処理を行うことになります。
唯一絶対の正解は無いため、退任・退社する取締役の従前の貢献度、今後の貢献可能性を考慮して適切な持株比率に調整する処理が必要になります。
(3)相続
創業株主が不測の事態で亡くなられる可能性も、万が一とはいえ想定する必要があります。創業株主はスタートアップやベンチャー業界について精通している場合であっても、親族の方が同様であるとは限りませんので、亡くなられた経営株主の相続人に発行会社の株式を継続して保有してもらうことが会社経営の観点から好ましいケースは少ないものと思われます。
したがって、創業株主に相続が発生した場合には、(2)と同様に他の創業株主または他の創業株主が指定する第三者に対して譲渡される仕組みにすることが望ましいです。
(4)株式譲渡先
退任・退社する創業株主に対して株式譲渡を強制する場合、その譲渡先として誰を指定すべきかという問題があります。
結論として、譲渡先として他の創業株主を指定すべきです。なぜなら、創業株主は一般的に持株比率がやや高いため、会社と関係性が全く無い人や関係性の薄い人に譲渡されてしまうと、会社の意思決定が予期せぬ影響を受ける可能性があるためです。
しかし、実際には資金調達を複数回繰り返している場合や業績が向上し売上/利益が一定金額を超えているような場合には、創業時に比較して株価が数倍~数十倍にまで高騰してしまっていることがあります。このような場合には、他の創業株主が買取を行いたくても買取資金が不足してしまうケースがあります。他の創業株主が個人で金融機関から借入を行うことも考えられますが、現実的には難しいことも多いのが実情です。そこで、他の創業株主が買い取れない場合には、譲渡先として他の創業株主が指定する第三者を指定すべきです。他の創業株主と一定の関係性を有する第三者が買い取ることで、全くの第三者や関係性の薄い第三者によって会社の意思決定が予期せぬ影響を受ける可能性は低くすることができるためです。
(5)株価(譲渡対価)
株式譲渡時の株価の決定方法については、①取得価額と同額、②第三者の株価算定、③簿価純資産法に基づく算定等の種類があります。複数の算定方法のいずれかを採用する形式もあれば、複数の算定方法の全てを実施した上で最も高い金額or最も低い金額とする形式もあります。
スタートアップの事業拡大期においては、会社及び創業株主に資金力が無いため、創業株主間の株式譲渡のために第三者に株価算定を依頼することは工数及び費用の観点から現実的ではなく、②第三者の株価算定を実施しずらいのが実情です。
また、赤字を掘って事業規模の拡大を目指すことも多いことから利益がほとんど計上されないことも多いため、③は適正な価額からの乖離が大きく納得感を得にくいことが多いでしょう。
そのため、基本的には①取得価額と同額とするのが良いでしょう。もっとも、税務上は、株式譲渡時の時価を基準として課税関係が処理される点に注意が必要です。
(6)株式譲渡に関する手続きへの協力義務
譲渡人と譲受人との間で株式譲渡契約を締結することで株式を譲渡することができます。もっとも、会社法上、会社に対する譲渡承認請求を行いその承認を得るか、会社の指定する第三者への譲渡を行い、株主名簿を書換を行わなければ、その効力を第三者に対抗することができません。
したがって、譲渡人に対して株式譲渡によって会社法上必要となる手続きへの協力義務を定めましょう。
3. 創業者株主間契約の条項サンプル
(1)退社・退任時の株式譲渡義務
第●条(株式譲渡)
甲または乙のいずれかが、会社の役員及び従業員の地位を喪失した場合には、その喪失の理由の如何を問わず、残存株主に対して自己が保有する株式の全てを譲渡しなければならない。なお、残存株主が、残存株主以外の第三者を指定した場合には、当該第三者に対して譲渡しなければならない。
※「甲」「乙」は創業株主を指す。
(2)譲渡価額
第条(譲渡価額)
第条に定める株式譲渡を行う際の株式1株あたりの譲渡価格は、取得価額と同額とする。なお、甲及び乙との間で別途異なる合意をした場合を除く。
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