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【弁護士が執筆】インターネット上の誹謗中傷に対する刑事告訴の方法と注意点 ~被害届と告訴と被害届の違い~

【弁護士が執筆】インターネット上の誹謗中傷に対する刑事告訴の方法と注意点 ~被害届と告訴と被害届の違い~
目次

1 インターネット上の誹謗中傷に対する刑事告訴等

(1) はじめに

インターネット上において名誉棄損に該当する投稿やPDFの配布などが行われている場合に、民事的な手続きに加えて、刑事処罰を求めるために刑事告訴を行うことが考えられます。

そもそも、刑事告訴とはどんなものなのでしょうか。

また、似たような言葉として「刑事告訴」や「被害届」といったものがありますが、これらとは具体的にどのように異なるものなのでしょうか。

(2) 刑事告訴

刑事告訴とは、犯罪の被害者など(告訴権者)が、捜査機関に対して、犯罪事実を申告し、犯罪を犯した者の処罰を求めることをいいます。

(3) 刑事告発

刑事告訴に似ている言葉として「刑事告発」があります。

刑事告発は、告訴権者以外の者が、捜査機関に対して、犯罪事実を申告し、犯罪を犯した者の処罰を求めることをいいます。

刑事告訴と刑事告発は、犯罪事実の申告し、犯罪を犯した者の処罰を求めることは共通していますが、それを求める者が告訴権者か否かで区別されています。

(4) 被害届

被害届は、捜査機関に対して犯罪事実を申告することをいいます。

被害届は、犯罪事実の申告に留まり、犯罪を犯した者の処罰を求める意思表示までは含まれていません。とはいえ、被害届の提出によって、捜査機関が犯罪事実を把握し、捜査を開始することはあります。

なお、被害届が提出された場合には、犯罪捜査規範第61条に基づき、警察官は被害届を受理しなければならないとされています。

犯罪捜査規範第61条

(被害届の受理)
第61条 警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2 前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。

2 刑事告訴・告発の方法と事前準備

(1) 刑事告訴・告発の方法

刑事告訴・告発は、刑事訴訟法第241条に、書面または口頭で、警察官または司法警察員に対して行うものとされています。

刑事訴訟法第241条

第二百四十一条 告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
②検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。

刑事告訴・告発は、法律上、書面または口頭で行うこととされています。そのため、告訴状や告発状といった書面の提出を行うことは必須ではありません。

もっとも、捜査機関に捜査に速やかに着手してもらうためにも、犯罪事実の経緯や証拠等も整理した上で告訴状や告発状を提出した方が望ましいです。

(2) 刑事告訴・告発を行う前の準備

インターネット上の誹謗中傷の場合、誹謗中傷を行っている相手方が特定できていない状態であることも珍しくありません。

捜査機関側で特定できることもあるとは思われるものの、事前に民事の手続である発信者情報開示請求によって事前に犯人を特定しておいたり、犯人と疑われる者を推察した根拠資料を準備しておいた方が捜査を円滑に進めるためにも良いと考えられます。

なお、刑事告訴・告発を検討している場合には、事前に所轄の警察署に事前相談に行くこともあります。事件の概要などを伝える良い機会ですので、事前相談も活用すると良いでしょう。

3 刑事告訴・告発の受理義務と実務対応

刑事告訴・告発について、捜査機関が受理をしないことがあるという話を聞いたことがあるかもしれません。

捜査機関には刑事告訴・告発を受理する義務があるのでしょうか。

刑事訴訟法上、刑事告訴・告発の受理義務を定めた条文は存在しません。もっとも、犯罪捜査規範第63条では、刑事告訴・告発の受理義務について定められています。

犯罪捜査規範第63条

(告訴、告発および自首の受理)
第63条 司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。
2 司法巡査たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、直ちに、これを司法警察員たる警察官に移さなければならない。

また、過去の裁判例では、刑事告訴の受理しなかったことが刑事訴訟法第241条に違反すると判断したもののもあります(東京地判昭和54年3月16日)。

犯罪捜査規範や過去の裁判例はあるものの、実際には告訴状が受理されないケースも存在します。

警察庁刑事局長等による「告訴・告発の受理体制及び指導・管理の強化について」と題する書面においても、「告訴・告発の相談をしても、疎明資料が十分にそろっていない、他の警察署が主となって捜査した方が効率的であるなどの理由により、受理を保留したり、他所属を紹介して受理を拒む例があるなどの苦情が依然として寄せられている。」との記載があります。

上記記載にもあるとおり、犯罪事実に関する資料が不足してる場合には刑事告訴・告発が受理されないケースや受理までに時間が発生するケースが想定されるため、弁護士等と相談の上、犯罪事実の経緯の整理や証拠の収集等の準備は出来る限り丁寧に行った方が良いと考えられます。


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